佐々木実×宮台真司×神保哲生:今あらためて巨人・宇沢弘文に学ぶ「われわれが本当に失ってはならないもの」【ダイジェスト】

佐々木実×宮台真司×神保哲生:今あらためて巨人・宇沢弘文に学ぶ「われわれが本当に失ってはならないもの」【ダイジェスト】



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マル激トーク・オン・ディマンド 第1135回(2023年1月7日)
ゲスト:佐々木実氏(ジャーナリスト)
司会:神保哲生 宮台真司

 2023年最初のマル激は、長年にわたるインタビューをもとに伝説の経済学者・宇沢弘文氏の伝記を著したジャーナリストの佐々木実氏をゲストに招き、宇沢氏の思想を改めて振り返り、氏がどのような社会を展望し、われわれは今、そこから何を学ばなければならないのかなどについて議論した。

 リーマンショックや新型コロナウイルスによるパンデミックは、これまでわれわれが無批判に推し進めてきたグローバリゼーションの脆弱性を露呈させた。またロシアによるウクライナ侵攻に起因する食料やエネルギー危機によって、ボーダーレス化した世界経済はいたるところでサプライチェーンが寸断され、事実上の麻痺状態に陥っている。

 2014年に86年の生涯を閉じた宇沢氏は生前、グローバル化やその背後にある新自由主義的思想は人が生きる上で必要な「社会的共通資本(Social Common Capital)」を破壊すると主張し、これを厳しく批判してきた。社会的共通資本とは、山河などの自然環境や道路や鉄道などの社会インフラ、教育や医療などの制度資本のことで、市場経済に組み込まれない人間にとって共通の財産を指す。そして今、宇沢氏の懸念がいたるところで顕在化しようとしている。

 東京大学理学部数学科を卒業した宇沢氏はもともと数学者としての天才的な能力が注目されていたが、世の中を良くするための仕事に就きたい一心で数学者の道を捨て、経済学者に転向した。幼くして戦争を体験した宇沢氏には、社会が激動する時に暢気に数学を勉強しているのが耐えられなかったと言う。

 後にノーベル賞を受賞するスタンフォード大学のケネス・アロー教授の招きで1956年に渡米した宇沢氏はベトナム戦争に疑問を持ち、アメリカの経済学がこの戦争の理論的裏付けを提供していることに強い抵抗を覚えるようになる。例えば、同僚の経済学者たちが、限られた予算の中で一人でも多くのベトコンを殺すための「キル・レイシオ(kill ratio)」などという概念を提唱しているのを見て、その背景にある市場原理主義の危険性をあらためて再確認したという。

 1964年、宇沢氏はミルトン・フリードマンなどを擁し、当時のアメリカ新自由主義の総本山とも呼ぶべき地位にあったシカゴ大学に移っているが、それは経済学の誤った流れを変えたいと考えたからではないかと佐々木氏はいう。1968年に突如日本に帰国した理由について宇沢氏は多くを語らない。しかし、帰国後の彼は、それまでの数理経済学者としての活動とは大きく活動内容を転換させ、水俣病などの公害問題や成田空港を巡る三里塚闘争などに深々とのめり込むようになる。こうした宇沢氏の変節については、一時はノーベル経済学賞に最も近い日本人と呼ばれ、アメリカの経済学会でも注目されるスターだった数理経済学者が、おかしな活動家の道に入ってしまったのは残念なことだなどと言われ、酷評されることも少なくなかった。しかし、今振り返れば、帰国してからの宇沢氏は経済学者として社会的共通資本の価値を証明することこそが、彼の学者としての使命だと確信して活動していたのではないだろうか。

 宇沢氏は帰国後、日本における新自由主義思想に基づく「改革」の実践の立役者となった竹中平蔵氏とも意外なところで接点を持っていた。しかし、竹中氏の「改革」の背景にある反ケインズの思想を、より根本的な次元で批判していたのが宇沢氏だった。

 宇沢氏がアメリカで輝かしい未来を捨ててまで、経済学者として自分の人生を懸けて証明しようとしたものは何だったのか。今こそあらためて宇沢氏の主張に耳を傾け、今日本が、そして世界が、宇沢氏から学ぶべきものが何だったのかを佐々木氏とともに、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が考えた。

【プロフィール】
佐々木 実 (ささき みのる)
ジャーナリスト
1966年大阪府生まれ。91年大阪大学経済学部卒業。同年、日本経済新聞社入社。東京本社経済部、名古屋支社を経て95年退社。同年より現職。著書に『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』、『宇沢弘文 新たなる資本主義の道を求めて』、『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』など。

宮台 真司 (みやだい しんじ)
東京都立大学教授/社会学者
1959年宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。

神保 哲生 (じんぼう てつお)
ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹
1961年東京都生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。

【ビデオニュース・ドットコムについて】
ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(月額500円+消費税)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。(www.videonews.com)

(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)

#マル激 #宇沢弘文 #佐々木実 氏 #社会的共通資本 #神保哲生 #宮台真司

22 comments
  1. 新自由主義という名のゲーム攻略至上主義的なスタンスか、そのゲームを行う主体、つまり「小さなことにも豊かに喜怒哀楽を感じる人間性豊かな自立した個人」としての主体を育むということを重視するスタンスか、というところでの分断があるのだろう。
    特に前者にとっては、後者のスタンスやそれを享受する者が、己がゲームに勝ち抜いていくギリギリの精神状態の裏返し・副産物としてのプライドから、とてもじゃないが許せない、足手まといであると強く感じるのだろう。

  2. ノスタルジーおやじ化して嫌だなあと思ったけど、あの事件以降キレが増してきた。

  3. 宮台さんの、頬から耳にかけて痛々しく、涙が出てきました。😢
    早く犯人、捕まらないものか。

  4. 結局、人民を飢え死にさせない、自殺をなくす、犯罪をなくす。
    無職やニートやホームレスでも恋愛結婚子育てできる社会や経済を形成する。
    そのために国家政府や中央銀行や産業界がある。
    それができなければ、それらの機構が存在する意義はない。

  5. 宮台さんは加速主義というが国民がみんながみんな全体性を気にするなんて余裕はないと思う。もっと庶民的視点を持ってほしい、説得するのを諦めたのだろうか。

  6. 宮台さんのお陰で、社会に更に興味を持ち、学びが進んでいます。自分の価値観を築く上で、社会がどうなっているかを知る事が大事だと感じます。自分一人では幸せにはなれません。全ては繋がりがあるので、環境、社会、他者と自分がどう関わり合って生きていくかを考えさせられます。

  7. 宇沢弘文氏が訴えた「大切なものを守る」ということ。神保氏や宮台氏の活動がまさにそれと言えるのではないでしょうか。

  8. 雨宮氏たちの気づきは、ここまで社会が酷くなってきたからこそやっと気づいた、ということでしょうか。いわゆる加速主義の示すところ、と捉えてもよさそうです。あまりに遅い😢
    このあと、日本社会はどうなっていってしまうのか。自分の生活も含め🧐

    社会において、酷い社会に導いてきた人たちの罪は重い。あまりに重い。

  9. 宮台先生はBMW、神保さんはチェロキー乗ってるんだっけな…まぁ、車欲しいよね(ΦωΦ)

  10. 宇沢さんのすごいとこは最後まで電車に乗って移動してたことだよな。言行一致を最後まで貫いた人。

  11. 宇沢弘文さん 見た目仙人みたいな雰囲気が優先して発言の中身を見落としてました。
    貧困が顕在して国の社会資本の貧弱さや他人事と放置している危うさに実感を覚えます。

  12. 宇沢弘文も小室直樹もビデオニュースドットコムで初めて知りました。本当に貴重な番組です。新聞、テレビ、大学、どこも教えてくれない大切な教養番組です。
    東大や早慶卒でも知らない人の方が圧倒的に多いんじゃないでしょうか。日本の教育の貧困を思います。

  13. 今回の放送を見て、宇沢先生の名前は昔から知っていて著書も多少読んでいたにも関わらずずっと今ひとつピンと来なかった理由がわかった気がしました。今こそ知られるべきときなのかもしれません。

  14. 明けましておめでとうとございます。宮台先生、アゴの傷が気になりますが、神保さんとのvideo news出演、嬉しいです。

    佐々木実さん、「市場と権力 竹中平蔵」のご著者ですよね? 初めてご本人を拝見しました。竹中氏や当時の様子がよくわかる本で、テレビで関連企業のCMが目に入る度、ご著書を思い出します。お目にかかれて光栄です!

  15. 高校時代に「自動車の社会的費用」を読んで、自動車免許を取らないことに決めた。しかし、いろいろ事情があって、35歳で免許を取った。しかし、今思うに、やはり日本では自動車は不要じゃないだろうか。なんで数十キロの人間が動くのに1トンの車を動かす必要があるのだろうか。ということで今は運転を止めた。

  16. 宮台さん、小生72歳てすが、欧米の様に戦って民主主義を獲得した経験がない日本ですよ、具体的に改善すること提言できますか? 貴兄は批判に安生してませんか?

  17. ケインズの訳本やら、経済学部でもケインズ触らない人は多分この人に触れないと思う。私は偶々知ってた。名前だけ。

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