かつて廃校の危機に瀕し、全校生徒わずか30人だった北海道の苫前商業高校。そこには、人間関係に悩み「環境を変えたい」と全道から集まった生徒たちの姿がありました。
入学当初は極度の緊張から別室で過ごしていた少年が、2年後には堂々とマイクを握る生徒会長へ…。
親元を離れた寮生活、そして街の人々との温かい交流のなかで、傷つき悩んだ生徒たちが自らの「居場所」を見つけ、劇的な成長を遂げていく軌跡を追いました。
4月8日。留萌地方の苫前町にある苫前商業高校では、新1年生を迎える準備が進められていました。
2年の女子生徒「虎野先生の似顔絵書きたい」
黒板には新入生の担任の似顔絵が…。
1年の担任 虎野正嗣教諭「髪いっぱい描いて」
2年の女子生徒「いや、もうちょい薄めにします…ハハハ」
1年の担任 虎野正嗣教諭「毎回ですが、顔を合わすまで緊張しますね」
新入生が到着。
記者「出身はどこですか?」
新入生「札幌です」「留萌から」「僕は千歳から来ました」
1年の担任 虎野正嗣教諭
「おはようございます。1年間担任をします虎野といいます。中学校からいろんな人が集まっています。いろんな思いがあると思います。3年間と言うと重荷になるから、まず1年間頑張りましょう」
苫前商業高校は全道から生徒が集まります。人間関係や学校生活に悩み、環境を変えたいと考える生徒も少なくありません。
この日、多くの生徒が親元を離れ、寮での暮らしが始まりました。
式を終えた新入生の元に、先輩たちが…。
3年生徒会長 高橋呂玖野さん
「新入生へのあいさつまわり、ライン交換をして」
中心にいるのは、3年生で生徒会長の高橋呂玖野(ろくや)さん。
3年生徒会長 高橋呂玖野さん
「担任の先生、怖い先生だった?大丈夫。めっちゃ優しい先生だから」
2年前、高橋さんたちの入学前の様子です。本来であればこの日、クラスメイトと初めて顔を合わせるはずでしたが、高橋さんの姿はありませんでした。
極度の緊張で、1人、別室で過ごしていたのです。
3年生徒会長 高橋呂玖野さん
「わたしは小学5年生から中学3年生まで学校に一度も通っていませんでした。そんな私がなぜ生徒会長としてみんなの前でマイクを持って大声で話せてるか。ここにいる先生方、同級生、後輩たちが私が、心から信頼している仲間たちだからです。だから恥ずかしくも、緊張もしないんです」
「ここは今日から皆さんの居場所です」
この2年間で、生徒たちは大きく変わりました。
同じく3年生の長谷川靖幸さん。2年前、カメラの前では…
記者「楽しみなことある?」
当時1年長谷川靖幸さん「特にありません」
記者「期待することとか、やってみたいことは?」
当時1年長谷川靖幸さん「特にないです」
2年前、カメラの前で無表情だった長谷川靖幸さん。
いまでは、バトミントン部の部長です。
3年佐藤亜美さん
「(長谷川靖幸さんは)何も考えてなさそうに見えて、1番周りが見えてた、気遣いできる。変わったと思いますよ。入学当時よりもよくしゃべります」
本人はー
記者「2年間で変わったことは?」
3年長谷川靖幸さん「特に…ないかな」
記者
「こんなことできるようになったとか、あったりする?」
3年長谷川靖幸さん
「人と話すのはマシな方になったんじゃないかな」
記者「それはなんで?」
3年長谷川靖幸さん「販売会とかで人と関わるのが増えたからじゃないですかね」
半世紀の歴史…生徒たちと地域の大人との交流
田植えの季節を迎えた5月の苫前町。50年以上の歴史をもつ「さくら祭り」です。
多くの町民が訪れ、花見やジンギスカンを楽しみます。そこに、苫前商業高校の生徒たちがカフェを出店しました。
3年生
「TOMACAFEを開店します!いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ!」
『TOMACAFE』という愛称で親しまれ、生徒たちが開発したスイーツなどを販売します。地域の人たちと交流する、大切な活動の1つです。
苫前町で働く人
「ウチの(介護)施設でアルバイトしてる子が店長やってて…とても親しみやすいキャラクターでそのまま働いてくれたらいいのに」
地元の人
「頑張ってる頑張ってる、町も明るくなるしさ、こういう子たちが田舎を元気にしてくれるからさ」
「自分を認めてくれる場所が貴重。ぼくにとってそれが苫前商業高校」
生徒たちは町を支える存在にもなっています。
3年生徒会長 高橋呂玖野さん
「高校は寮制でもあるので、親と関わる代わりに町の人たちとの関りが深いのかな。自分を認めてくれる場所がすごく貴重で、僕にとってはそれが苫前商業高校だった」
まつりには、新1年生の姿も。
記者「学校生活どう?」
新1年生「最高です、楽しいです。各自楽しんでやってそう」
知らない町で、知らない人たちと始まった新しい生活。
先輩たちがそうだったように、新入生もこの町で自分の居場所を探していきます。
堀啓知キャスター
継続取材をしていると、明らかに成長、変化が見えるなと思ったんですけど。長谷川さんが言ってましたが「自分では変わってない」と。でも周りの友達はね、ちゃんとその変化に気づいてくれていたなと思いました。
コメンテーター鶴岡慎也さん
この変わりようを見たら、親がやっぱり「行かせてよかったな」って思うでしょうし。なんか僕も親の気持ちで見ちゃってて。なんか素晴らしい学校だし、地域だなと思いましたね。
彼らにとっても、ここで勇気を振り絞ってこの学校に行って、この学校での行動が大人になっても絶対生きてくるんで。なんか大人になってもね、本当に素晴らしい人間になっていくんだろうなって、想像できますよね。
堀キャスター
そうですよね。生徒会長の高橋くんは、もう大人に見えます。
世永聖奈キャスター
堂々とした話し方で皆さん表情がイキイキしていましたが、苫前商業高校は3年前に取材した時はですね、廃校の危機にありまして、当時の生徒数はわずか30人でした。一方、今では全校生徒が64人になっていまして、先月新しい女子寮も増設されるなど、にぎわいを増しているんです。
堀キャスター
地域との関わりを持ちながら、生徒が成長していける、そういう環境。こういう公立高校があるっていうのは大事ですね。
コメンテーター須田布美子さん
そうですね、驚きますし。今、学校に行けない子に「無理に行かなくていいよ」というのが傾向だと思いますし、私も無理に行かせる必要はないとは思いますけれど。だからといって、人とのコミュニケーションを阻害していくっていうのが、いいわけではないので、こういった代わりに地域とのコミュニケーションも含めた、経験が広がるっということができるのが、素晴らしいなと思いました。
堀キャスター
お祭りで自分たちが作ったものを実際販売して、町民の方がちゃんと、お金を払って買ってくれるわけじゃないですか。「美味しい」って言ってくれたり。これは成功体験にね、きっとなると思うんですけど。彼らはまず寮生活で規律をこう覚える。そして、学校での個人個人に寄り添う教育環境がある。そして地域との関わりがあると。やっぱこの3点は、非常に彼らの成長をこう促してんじゃないかなと思いましたけどもね。
いやあ、苫前商業高校の1年生が、今年は24人入ったということですので、素敵な思い出と成長が、この後訪れることを祈っています。